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厚生労働省が去る3月1日に「社会・援護局関係主管課長会議」の場で、警察官OB等を福祉事務所内に積極的に配置するよう要請したというショッキングな報道があった。すでに多くの団体や人々が厚生労働省に抗議や撤回の要請をしているようであるが、これは国が率先して、生活困窮のために仕方なく福祉事務所を訪れた国民・市民を威嚇・恫喝しようとしているとしか受けとれず、よくもまあこんな恐るべき発想・動きをしたものだと思う。厚労省は、昨年新聞に載った次の事実を知らなかったのだろうか。


 生活保護相談の市民に「虫けら」 大阪・豊中市嘱託職員(朝日新聞2011/11/02)
 大阪府豊中市役所の嘱託職員が市民に暴言を浴びせたとして、大阪弁護士会は1日、市に再発防止を求める勧告書を送ったと発表した。
 弁護士会は先月31日付の勧告書で、職員が2009年10月、「生活保護の支給が遅れている」と訴えた50代の男性に出張所の個室で応対した際、「虫けら」などと大声で暴言を浴びせたと指摘。男性の自尊心や名誉を傷つけ、人格権を侵害したとしている。
 職員は府警OBで、本来の担当職員に同行する形で個室にいた。男性へのこうした対応について、勧告書は「市は(府警OBに)ボディーガード的な役割を期待しており、人権侵害を市も黙認した側面がある」と指摘している。
 これに対し、市生活福祉課は朝日新聞などの取材に虫けらという発言は確認できていないとしたうえで、 「大声を出すなどの不適切な対応はあった。指導を徹底したい」と説明した。(平賀拓哉) 」

おそらく厚労省はこの事実をよく知っていたのではないか。そして自分たちもこれに倣おうとしたのではないか。そう思うと、やりきれなさにただ暗澹とした気持ちになる。なぜ福祉の専門家ではない「警官OB」を福祉事務所に配置するのかといえば、「元警官」という肩書をもつ人物の存在によって生活保護受給者および受給希望者を威嚇・恫喝しようとする以外の目的はありえないだろう。

大阪府の福祉事務所で生活保護受給者に府警OBである職員が「虫けら」と言ったという2009年10月は、橋下府政2年目である。橋下氏就任以前に、大阪府の福祉事務所に府警OBが雇用されるというようなことがあったのだろうか? あったのか、なかったのか、その事実が知りたい。なぜかといえば、福祉事務所に府警OBを雇って訪問者を威嚇する役割を担わせようとするような発想は橋下氏の日頃の言動にあまりにもぴったりマッチしている。他にこのような発想をする人物はそうそうはいないのではないか(いたら大変だ!)と思うからである。

生活保護と橋下氏(大阪維新の会)との関連では、先日下記のような報道もなされた。


 生活保護に「現物支給」…大阪維新の会、政策集に明記へ(朝日新聞2012年6月17日)
 大阪維新の会(代表・橋下徹大阪市長)が、次の衆院選に向けた政策集「船中八策」(維新八策)に、生活保護制度の現金給付を改め、クーポン券の利用や生活用品を渡す現物支給を基本にする考えを盛り込むことがわかった。セーフティーネットのあり方にかかわるだけに、議論を呼びそうだ。
 関係者によると、橋下代表ら幹部が生活保護制度の見直しを検討。不正受給問題を解消し、保護費の増大を抑えるため、現物支給を軸にすることで一致した。
 食料品や衣服、生活用品は対象者に配布するクーポンと引き換えてもらったり、指定店で入手できるようにしたりする一方で、現金給付をほとんどなくす方向という。医療費についても一定の自己負担を求めるほか、受給資格は期間限定とし、受給を続ける場合は再審査する制度も盛り込む。(池尻和生) 」

何のための「現物支給」かといえば、これも生活保護受給者に対する「不信」による「監視」目的の、いわば「いやがらせ」「いじめ」の類になるだろう。「現物支給」のためには行政側に多くの人手が要る。お金もかかる。どういう道理でこれが「不正受給」や「保護費の増大」の解消になるというのだろう。「受給資格は期間限定」というのも、受給者の多くが高齢者や病人であることを考えると、大いに問題があるだろう。また、受給者のなかには受給していることを他人に知られたくないと思う人も多いだろう。プライヴァシー保護の見地からいってもその意思はきちんと尊重されなければならない。その側面からも「現物支給」や「クーポン配布」は疑問である。生活保護受給者にかぎっての「現物支給」に肯定的評価ができる点は何ら見られないように思う。

橋下氏や維新の会の発言を真に受けると、何事によらずろくなことにはならない。橋下氏にしろ、大阪・ミナミの通り魔事件の容疑者に対して、「『死にたい』と言うんだったら自分で死ね」という趣旨のことを言い放った知事の松井氏にしろ、その言動からみえる精神構造はどうみたってほとんど街のチンピラまがいである。本来なら厚生省は2009年に発生したという大阪府内福祉事務所の「府警OB」職員による暴言事件に対して注意・勧告をなすべき立場にあるはずだ。それなのに、かえって自らそれを見習って行こうというのだから、まったくどこにも救いようがない。当ブログで何かとその発言を引用することの多い中野重治は生活保護に関しても触れて書いているので次に記す。

「生活保護基準関係の例の朝日茂氏の行政訴訟問題で、早稲田大学の末高信(すえたかまこと)教授が憲法調査会公述人として述べているのなんかを聞くと震えがくる。ただくるのでなくておかしいのと同時に震えがくるのだつたが、ただ震えがくるのよりも恐しい。問題の基礎は基本的人権のことにあつたが、その基本的人権のことでこう末高がいっている。
「生存権的基本権といえども絶対ではない。例えば警官が泥棒をとらえるとき、生命の危険があつてもあえて犯人を捕えなければならない。したがって警官の生命の尊重は絶対でなく相対的である。」
 とても、脆弁だの何だのといつている関ではない。むちやくちやも通りこしてしまつている。居直り強盗は居直るのだから巡査の生命の尊重は制限されている。船はぼろで、医者は一人も乗り組ませていないのだから漁夫の命の尊重は制限されている。たまつたものではない。泥棒に居直るなということがてんで初めから成り立たない。船をちやんとしろ、一船団せめて一人はほんものの医者を乗せろということがはじめから成り立たない。私は、こんな具合の言葉は普通の言葉に言いなおすのがいいと思う。普通の言葉にして、普通の人間の感じ方、考え方にして読みなおせばおかしさと震えとの関係がわかつてくる。緻密なように見えているものの非人間的ながさつさ、一分の隙もないように見えているものの非人間的ながらん洞が誰にも見えてきて決着がつく。ひとめぐりであつてもなくつてもかまわない。人間的とか理性的とかいう言葉の生まれる前のところで木訥(ぼくとつ)に決着がつくだろうと思う。」(中野重治「ひとめぐりか、ふためぐりか」『新潮』1961年)

これは相当に長い(400字詰め原稿用紙25枚分ほどの)文章のほんの一節なのだが、タイトルの「ひとめぐりか、ふためぐりか」の由来は、敗戦から15年たったその時期に、ある人物が「15年ひとめぐり」といつたことを書いたそうで、そこから採っている。その「15年ひとめぐり」の内容は、

「「ひとめぐり」でなくて「一サイクル」というのだつたかも知れない。なにせ、それは、戦後いろいろとあつて15年すぎてしまつたが、15年すぎてみると、何もかも逆もどりしてしまつている、振出しへ戻つてしまつている。元の木阿弥といつた姿ではないかといつたような話」

というようなものだったらしい。それについて、中野重治は、「けれども、ほんとにひとめぐりか、それともふためぐりではないのかといったことも私の頭にはうかんでくる。」「大いにふためぐり風でありはしないか、ひとめぐり説そのものさえどうやらふためぐりじみていはしないかといったことも私には思いうかんでくる。」「そこで、ひとめぐりでもふためぐりでもなくて何かとんでもないめぐりではないかと思えることも私の足もとにはある。たとえば、処女詩集を著者の写真肖像入りで出す風潮というものなんかもその一つにはいる。これなんかは全く事情がわからない。私には呑みこめない。」などと、苦い嘆きの種はつきることなく次から次へとつづくのだが、この60~61年という時期を基点として「ふためぐり」ということになると、昭和の初年にさかのぼるということになるわけである。上の朝日訴訟問題における末高発言が、「ひとめぐり」か「ふためぐり」か「新しい何かとんでもないめぐり」のどれに入るのかというと、中野重治は明言していないが、「何かとんでもないめぐり」のうちに入るのかも知れない。それでもこのとき末高発言はまったく世に受け入れられなかったのだ。朝日訴訟によって生活保護の給付額、その他の福祉が明確に向上したのは、朝日茂氏の主張に世の多くの人が納得、共感、賛同したからだろう。

日本社会における普通あるいはそれ以下の生活レベルの人間にとって、生活保護は決して他人事の話ではない。現状の就職難、リストラ解雇、それに思いがけない病気や事故などの災難は、いつ誰の身に降りかかるか知れたものではない。そういう可能性を考えれば、生活保護は、自分自身の問題なのだ。厚生省が進める「福祉事務所への警察官OB配置」、「現物支給」「期間限定」などという維新の会の主張、ともに餓死者や自殺者をさらに増やすことになるのが目に見えているきわめつきの悪政であり、とうてい見逃せない。両者ともにただちに謝罪して撤回すべきである。
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2012.06.24 Sun l 社会・政治一般 l コメント (0) トラックバック (0) l top
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