QLOOKアクセス解析
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- -- l スポンサー広告 l top
元少年は差戻し控訴審において、これまでのすべての裁判所ーー 一審の山口地裁、第一次控訴審の広島高裁、第一次最高裁ーーで事実として認定されてきた「背後から被害者に抱き付き、仰向けに引き倒し、馬乗りになった上、殺意をもって、被害者の喉仏を両手の親指で思い切り押さえつけるようにして首を絞めたところ、更に激しく抵抗されたた め、被害者の頚部を両手で全体重をかけて首を絞め続けて窒息死させて殺害した」、「被害児を頭の上の高さに持ち上げ、その後頭部から居間の床に思い切り叩き付けたところ、一瞬泣き声がやんだものの、絶命せず、かえって激しく泣き出したため、首を締め付けて殺害しようと考え、両手で被害児の頚部をつかむようにして締め付けたが、首尾よく締め付けることができなかったことから、ズボンのポケットに入れていた紐を同児の頚部に巻き付け、その両端を力一杯引っ張って絞殺した 」(第一審判決)という判決の基である捜査段階の自白調書は、 取調べた検察官が作成し、それを自分が認めたところの「虚偽が語られている調書」であると供述しているが、こうして少し長めに読んでみると、確かにこの供述にはおかしなところがあると判る。この疑問は差し戻し控訴審の弁論要旨にも記述されていたが、「被害児を頭の上の高さに持ち上げ、その後頭部から居間の床に思い切り叩き付けた」というのに、赤ちゃんは頭がグシャリとなって致命傷を負うどころか、まったく平気な様子なのである。1歳未満の乳児の世話をしたり、身近に暮らしたことのある人は誰でも判っていることと思うが、その時期の子どもの頭は大変柔らかい。だからこそ少年の「頭上から思い切り床に叩き付けた」という行為が耐えがたく残忍に感じられたのだ。私などは以前は少年のこの行為で赤ちゃんは死に至ったものと疑いもなく思い込んでいたのだが、ところがそうではなかったのだ。これほどの行為があったというのに、どうやら赤ちゃんはピンピンしている様子でなのである。そればかりか、この後「両手で被害児の頚部をつかむようにして締め付けたが、首尾よく締め付けることができなかったので」とつづいている。この供述もどう考えてもおかしい。乳児の頚を18歳の男性の力をもって両手で締め付ければ、その際彼が自分の手のどの指を用いていようと、その時点で赤ちゃんは供述調書のように無事でいられるはずがないのは自明と思う。

差戻し控訴審判決が、元少年の供述の変化について、また新供述の信用性について、どのような判断を示しているか見てみよう。少し長くなるが次に引用する。


 (1)  …被告人は,逮捕の2日後に本件公訴事実を認める内容の供述をしてから,実に7年近くが経過して初めて,旧供述が真実ではないという供述をするに至ったのであり, 特に 第一審においては殺人および強姦の計画性を争いつつも,本件公訴事実を全面的に認め, 本件を自白した経緯や心境等についても,上記検察官調書(乙15)および警察官調書(乙 3)と同趣旨の内容を公判廷で任意に供述していたものである。そして,被告人は,差戻前控訴審においても,強姦の計画性の点を除き,第一審判決が認定した罪となるべき事実を争わなかったところ,旧供述を翻し,弁護人に対し新供述と同旨の供述を始めたのは,上告審が公判期日を指定した後のことである。

 (2) 被告人は,当審公判において,旧供述が記載された供述調書の作成に応じた理由,第一審略公判で真実を供述できなかった理由,旧供述を翻して新供述をするに至った理由等について,詳細に供述しているところ,その核心部分は,以下のとおり要約することができる。

 ア 平成11年4月19日の<O>検察官による取調べにおいて,被害者とセックスしたことを,自分はレイプと表現せず,エッチな行為をしたと話していたところ,同検察官から,被害者が,抱きつかれて抵抗したということは,被告人とセックスをしたくなかったわけだから,死後にセックスしているのはレイプであると決めつけられ言い合いになったが, レイプ目的がなかったと余りにも言い張るようであれば,自分にはそのつもりはないけれども,上と協議した結果,死刑という公算が高まってしまう,生きて償いなさいと言われて涙を流し,同検察官が作成した供述調書に署名した(当審第8回被告人21ないし23,151ないし157項)。<O>検察官から,本当のことを話すことが被害者らへの報いになると言われ,本当のことを話すというのは,検察官の言い分を認めることだと認識していた(同第8回被告人59ないし61,161ないし163項)。

 イ 第一審で真実を話すことができなかったのは,自分自身が事件を受け止めるだけのものができ上がっていなかったし,裁判は自分を素直に表現しにくい場であり,言い足りない部分もあったと思うし,自分自身をどこまで言い表していいかも分かっていなかったからである(当審第8回被告人 295,297,320項)。結果的に人を殺めてしまっている事実や,姦淫している事実は,自分自身がしたことであり揺るぎがないので,公訴事実を認めているところもあり,殺害や強姦の態様等が裁判の結果に影響するという認識は全くなく,それらの事実の重要性にまで考えが及ばなかった(同第8回被告人259,260項)。また,初めて裁判所というものに臨むに当たって,緊張状態が大変高まっており,すごく不安な状態であったし,弁護人との事前の打合せが十分になされておらず,被告人質問で具体的に何を聞き何を答えるかについての打合せはなかった(同,第8回被告人220 ないし 223,257,258項)。弁護人に対し強姦するつもりはなかったと話したが,結果的にセックスしているわけだから,争うと逆に不利になるなどと言われしっかりとは争ってもらえなかった (同,第9 回被告人191ないし196項)。弁護人から,通常この事件は無期懲役だから,死刑になるようなリスクがある争い方はしない方がいいと言われた(同第8回被告人 245,246項)。罪状認否については,その意味合いを全く聞いていなかったし説明が不十分であった(同第8回被告人236,237項)。 結果的に2人を殺めてしまっていることに変わりがないという認識を持っていたので,言い逃れのような気がして,弁護人に対し,殺すつもりがなかったという言葉を用いることができなかった。法律的な知識がなく殺すつもりがあったかどうかが大切なことだということは全く分かっていなかった(同第9回被告人186ないし190項)。姦淫した理由が性欲を満たすためと述べたのは,生き返らせよう と思って姦淫したと言うと,ばかにされると思ったからである(同第8回被告人310ないし 313項,同第9回被告人565ないし570項)。

 ウ 差戻前控訴審の弁護人に対し事実関係特に犯行態様や計画性等が第一審判決で書かれている事実とは違うことを伝えた(当審第8回被告人344項)。その中身全体ではなく,強姦するつもりはなかったというところを,どうにかしてもらえないかということを伝えた。同弁護人に対し,被害者方に入った後や被害者を殺害した後の時点でも,当初から一貫して強姦するつもりはなかったことを伝えた(同第9回被告人946ないし949項)。 

 エ 平成16年2月から教誨を受けるようになり,教誨師に対し事件の真相を話した。そして, 平成18年2月に安田弁護士および足立弁護士と初めて接見した際,安田弁護士から,事件のことをもう一度自分の口から教えて欲しいと言われ,被害者に甘えたいという衝動が出て抱きついてしまったこと,殺すつもりも強姦するつもりもなかったこと,右片手で押さえたこと,被害者にスリーパーホールドをしたことなどを話し,被害児に紐を巻いたことは覚えていないことなどを話した (当審第8回被告人395ないし428項)。安田弁護士から自分の供述調書を差し入れてもらい,事件記録を初めて読んで,余りにも自分を見てもらえていないことに憤りを覚えた(同第9回被告人443項)。 そして,同年3月ころから,事実と向き合い,細かい経過を思い出して紙に書き表し,勘違いや見落としをその都度修正するという作業をし,同年6月から,本件上申書の作成を始めた(同第8回 被告人435ないし446項)。」

 (3)  しかし,旧供述を翻して新供述をするに至った理由等に関する被告人の当審公判供述は,以下に説示するとおり,不自然不合理である。

 ア 被告人の新供述と旧供述とは,事実の経過が著しく異なっており,被害者および被害児の各殺害行為の態様,殺意,強姦の犯意の有無等についても全く異なっている。したがって,本件各犯行についての被告人の新供述が真実であるとすれば,被告人は,自分の供述調書に記載された内容が,真に自分の体験したこととは似ても似つかぬものになっ ていることを熟知していたはずであり自分の供述調書を差し入れてもらって初めて,その記載された内容が自分の経験と違っていることに気付くというようなことはあり得ない。しかるに,本件公訴が提起されてから安田弁護士らが上告審弁護人に選任されるまでの6年半以上もの間,第一審弁護人,差戻前控訴審弁護人および上告審弁護人に対し, 強姦するつもりがなかったということを除いて,新供述のような内容の話を1回もしたことがないというのは,余りにも不自然である。被告人は,第一審弁護人と接見した際, 供述調書を見せられ,ここが違う,ここが正しいという確認をされた旨供述しており(当審第8回被告人251項),しかも,検察官から,供述調書の不服な部分等について,後で供 述調書を作成すると約束されたというのであるから,上記のように供述調書の内容を確認された機会に,旧供述が記載された供述調書の誤りを指摘し,新供述で述べているような内容の話をしなかったということは考えられない。 この点について,被告人は,教誨師と接触するまで人間不信のような状態であった,弁護人に真相を話して良いという権利 の存在自体を知らなかった,上告審段階まで弁護人が非常に頼りない存在であると認識しており,相談したいことがあっても相談できない状態であったなどと供述している(当 審第8回被告人430項,同第9回被告人943,945項)。 しかし,被告人は,第一審判決および差戻前控訴審判決の言渡しを受けた際,朗読される判決書の内容を聞いているほか,これらの判決書ならびに検察官作成の控訴趣意書および上告趣意書を読んで,犯行態様や動機について全く違うことが書かれているのは分かった旨供述している (当審第9回被告人939ないし942項)ことに照らすと,弁護人に対し,上記各判決で認定された事実が真実とは異なるなどとして,その心情を伝えたり,新供述で述べるような内容を話したりすることもなく,死刑を免れたとはいえ,無期懲役という極めて重い刑罰を甘受するということは到底考え難い。特に,定者弁護士は平成12年5月26日に,山口弁護士 は同年9月18日に,それぞれ差戻前控訴審の国選弁護人に選任され,さらに上告審においては,定者弁護士が平成14年4 月8日,山口弁護士が同月22日,井上弁護士が同年11月27日に,それぞれ私選弁護人に選任されているところ,差戻前控訴審において国選弁護人であった弁護士2名が,いずれも上告審に おいて被告人により私選弁護人として選任されていることに照らすと,被告人は,差戻前控訴審における定者弁護士および山口弁護士の弁護活動を通じて両弁護士を信頼したからこそ,上告審においても私選弁護人として選任したものと解される。そして広島拘置所長作成の捜査関係事項照会書に係る回答についてと題する書面(当審検7)によれば,定者弁護士が差戻前控訴審の国選弁護人に選任された後の平成12年6月30日から平成17年12月6日に上告審で公判期日が指定されてその旨弁護人に通知された翌7日までの間,弁護人であった定者弁護士,山口弁護士または井上弁護士は,被告人と296回もの接見をしていることが認められる。しかも,被告人は,当審公判で,父親との文通が途絶え,差戻前控訴審および上告審の弁護人であった定者弁護士が,衣服,現金,生活必需品の差入れをしてくれるなど,親代わりになったような感覚であった旨供述しており(同第9回被告人222項),多数回の接見を重ねた同弁護士に対し,強姦するつもりはなかったという点を除いて,新供述で述べるような内容の話をしなかったというのは,まことに不自然である。また,被告人は,差戻前控訴審の弁護人に対し,被害者を殺害した後の時点も含めて,当初から一貫して強姦するつもりがなかったことを伝えたというのであるが,そのような説明を受けた弁護人が,死刑の可否が争われている重大事件において,強姦の犯意を争わないということは,通常考えにくいことである。同弁護人作成の答弁書および弁論要旨をみても,強姦の計画性を争うのみであり,むしろ,強姦の犯意を生じたのは犯行現場においてであるという趣旨の主張が記載されているところ,そのような記載がされた理由について,被告人は,分からないと述べるにとどまっている(同第9回被告人950項)。 なお,被告人は,差戻前控訴審において,定者弁護人に対し,強姦するつもりはなかったと言ってはいないとも供述している(当審第9回被告人200,201項)ところ,このように供述が変遷すること自体不自然である。 さらに,被告人が,公訴提起後6年半以上もの間,多数回にわたる接見にもかかわらず, 弁護人に対し,新供述で述べるような内容の話をしたことがなかったのに,初めて接見した安田弁護士らから,事件のことを話すように言われるや新供述を話し始めたというの も不自然である。この点について,被告人は,当審公判で,法律的な知識に乏しかったがために,これまで真相を語ることができなかったかのような供述もしている。 しかし, いかに法律的な知識に乏しかったとしても,第一審および差戻前控訴審の各判決書,控訴趣意書等に記載された事実は,被告人が当審で真実であるとして供述する内容と余りにも異なっていることに照らすと,公訴提起後6年半以上の長期にわたり, 1回も弁護人に相談しなかった理由として,納得できるものとはいえない。 このような被告人の供述経過および弁護人との接見状況等にかんがみると,被告人が,上告審の公判期日が指定されるまで維持していた旧供述を翻したのは,まことに不自然である。

 イ 被告人は,生きて償いなさいと言ってくれた検察官がいたのに,第一審で検察官が死刑を求刑するのを聞いて,大変裏切られた感が否めず,ショックを受けた旨当審公判で供 述している (当審第8回被告人334ないし336項)。 被告人が,検察官から,生きて償うように言われて,事実とは異なる内容の供述調書の作成に応じたというのが真実であれば, 死刑求刑は検察官の重大な裏切り行為であり,被告人が,事実とは異なる内容の旧供述を維持する必要は全くない上,弁護人に対し,検察官に裏切られたとして,事案の真相を告げ,その後の対応策等について相談するはずである。しかるに,弁護人は,弁論において,本件公訴事実を争わなかったし,被告人も,最終陳述において,本件公訴事実を認めて,遺族に対する謝罪の気持ちを述べたのであり,検察官に対する不満も何ら述べていな い。しかも,被告人は,供述調書の内容について,不服や言い足りない部分については,後で訂正してもらえるという約束があったというのであるから,旧供述を撤回して新供述に訂正する供述調書の作成を求めたり,その旨弁護人に相談したりするなどの行動を取ってもよさそうであるのに,そのような行動に出た形跡もない。生きて償うように言われて,事実とは異なる内容の供述調書の作成に応じた旨の被告人の上記供述は,たやすく信用することができない。

 ウ 被告人は,安田弁護人から事件記録の差入れを受け, 初めて自分のした行為に直面し,自分というものを見てもらえていないことが分かって憤りを覚え,その後事実と向き合 うようになった旨供述する(当審第8回被告人380ないし387項,同第9回被告人439ないし451項)が,自分の記憶に照らし,検察官の主張ならびに第一審判決および差戻前控訴審 判決の各認定事実が自分が真実と思っている事実と異なっていることは容易に分かるはずであり,事件記録を精査して初めて分かるという性質のものではない。

 エ 以上のとおり,被告人の当審公判供述は,旧供述を維持してきた理由としても,旧供述を翻して新供述をするに至った理由としても,不自然不合理なものである。」(差戻し控訴審判決「主文」


この事件は、2人の被害者に対する殺害の実態が報道されるとその残忍さが人々に衝撃をあたえたことや、妻子を奪われ一人遺された被害者遺族男性が当初から被告人に死刑判決を望んでいるとつよく訴えていたことなどによって、裁判は早い段階から元少年に果たして死刑判決が言い渡されるかどうかに最大の注目が集まることになった。その上、二審に入るとあの不埒な被告人の手紙が検察側から法廷に持ち出され、その傾向にますます拍車がかかった。私たちがそもそも捜査段階の被告人の供述調書に誤りがあるかも知れないことに初めて思いを致したのは最高裁段階に入って元少年が「これまでの裁判では本当のことを言うことができなかった」としてそれまでの供述をことごとく否定し、「新供述」を述べ始めたことからであった。

これに対して判決は上記のように「いかに法律的な知識に乏しかったとしても,第一審および差戻前控訴審の各判決書, 控訴趣意書等に記載された事実は,被告人が当審で真実であるとして供述する内容と余りにも異なっていることに照らすと,(略)被告人が,上告審の公判期日が指定されるまで維持していた旧供述を翻したのは,まことに不自然である。」と判示しているわけだが、しかし元少年が一・二審とは「余りにも異なっている」その新供述を初めて話したのは「上告審の公判期日が指定され」てからではなく、その大分前に拘置所の教戒師にすでに新供述を打ち明けていたと被告・弁護側は法廷で説明し、だから教戒師を証人尋問してほしいと要請していたことについては、このブログはこれまで何度も言及した。裁判所はその要請を拒んでおきながら、「上告審の公判期日が指定される」と、突如元少年が供述を翻したかのように述べるのは矛盾もはなはだしい。前回、被告人質問の場で弁護人から新供述をすることになった経緯について尋ねられた元少年が、「自分の方から話した。ただ、安田先生に言う前に教戒師の先生にも同じことを話している」「教戒師に会うまでは人間不信のような感じだった。そうでなければ、安田先生にも話すことができたか分からない」 と答えている発言を引用したが、そのように彼が一・二審の頃、自分の方からは(弁護人なり裁判官なり、誰かが丁寧に彼の話を引き出そうと努めていれば話は別だったろうが…。)真実を話せなかったと述懐していることはおそらく本心ではないだろうか。司法になぜ少年の保護を規定した少年法が必要不可欠とされているか、これはその根拠、理由を如実に示している好例ではないかと思う。

差戻し控訴審の被告人質問で元少年は、一審の弁護人に「強姦するつもりはなかった」と話してみたが、「無期懲役だろうから、変に争うよりも情状面で主張していくと言われ た」、「(弁護人は)頭を抱えていた。引っ繰り返すのは難しい、と」 と述べている。この部分は判決文から先ほど引用した箇所と直に関連する部分でもあり、またここにはこれから取り上げるつもりの「検察官の取り調べ」についての元少年の説明も出てくるので、以下に引用しておく。


 弁護人 「逮捕翌日の検察官からの取り調べでレイプ目的の犯行だとする調書が作成されているが、このとき償いについて何か言われたか」
 被告 「『生きて償いなさい』ということを言われた。『亡くなった奥さんとエッチした』と話したのだが、検事さんは『だんなさんがいるんだから、死後でもレイプじゃないか』という風に話を持っていかれた」
 弁護人 「レイプ目的を認めなくて、何を言われたか」
 被告 「『このまま言い張るようだったら、死刑の公算が高まる。でも、ぼくは『生きて償ってほしい』 と言われたので、調書にサインした」
 弁護人 「調書についてはどう説明されたか」
 被告 「調書というものはしゃべったことがそのまま載るのではなく、取り調べた人の印象や感想が載るものだと言われた」
 弁護人 「言いたくないことは言わなくていいという説明はあったか」
 被告 「受けていない」
 弁護人 「当番弁護士は頼んだか」
 被告 「頼んでいない」
 弁護人 「だれかが頼んでくれたのか」 (引用者注:一審の弁護人は元少年の父親が依頼したとのことである。)
 被告 「はい」
 弁護人 「弁護士について検察官は何か言っていたか」
 被告 「弁護士はうそをつくし、費用も莫大にかかるけえ、親に迷惑をかけることになる、と」
 弁護人 「それを聞いてどう思ったか」
 被告 「頼る人はいなくて、取り調べ官に頼るしかないという感覚になった」
 弁護人 「『生きて償いなさい』と言われて信用したのか」
 被告 「はい」
 弁護人 「結局、捜査段階では弁護人はつかなかったのか」
 被告 「はい」
 弁護人 「当時、『強姦』や『レイプ』をどう理解していたのか」
 被告 「別の意味と理解していた。レイプは押しの強いエッチのこと、強姦は女性を襲うことと認識していた」
 弁護人 「では平成11年4月18日に警察に連れていかれる経過を。警察官が家に来た理由はすぐ分かったか」
 被告 「はい。ぼくが人を殺してしまったから」
 弁護人 「傷害致死と殺人の区別はついていなかったのか」
 被告 「はい。そもそも傷害致死という言葉を知らなかった」
 弁護人 「逮捕当日に警察で作成された調書には、弥生さんを死なせたことについて『右手で首を絞め続けた』とあるが」
 被告 「ぼく自身は弥生さんの首にぼくの手があったことを言っているのだが、『押さえた』というのはどうしても理解してもらえず、『絞めた』ということに、調書ではなったのだと思う。無我夢中だったため押さえたか絞めたか断定できないので、違和感はあったけど否定しきれなかった」

《これまでの判決は「被告が弥生さんに馬乗りになり両手で首を絞めて殺害した」と認定。 しかし、差し戻し控訴審で被告は「無我夢中で弥生さんを押さえつけていた」と供述している》

 弁護人 「『夕夏ちゃんの首をひもで絞めて結んだ』という記載は」
 被告 「死因はぼくが(抱き上げようとして)床に落としてしまったせいと思っていたので、ひもは警察官の方から言ってきたと思う」
 弁護人 「『ひもで絞めた』とは言っていないのか」
 被告 「はい」
 弁護人 「弥生さんを姦淫したことは認めたのか」
 被告 「性行為があったことは認めた」
 弁護人 「翌日の検察官の取り調べでは」
 被告 「姦淫という言葉を知らなかったので、『裸にしてエッチな行為をした』と話したら、それをレイプと決めつけられた」
 弁護人 「この日の取り調べで、自分の言ったことがそのまま調書にとられていないという意識はもったか」
 被告 「はい。でも『生きて償いなさい』と言ってくれたことが嬉しくて、これだけ自分のことを考えてくれるのだから、と調書にサインした」

《休廷をはさみ、弁護人が交代》

 弁護人 「次は逆送後と1審の被告人質問での供述について。弁護人は選任していたが、逆送について説明はなかったのか」
 被告 「なかった」
 弁護人 「逆送後の調書には『強姦した』とあるが」
 被告 「調書の読み聞かせのときには『エッチした』と読まれているはず」
 弁護人 「弁護人に相談しなかった理由は」
 被告 「取り調べの人がいい加減なので、弁護人もいい加減と決め付けていた」
 弁護人 「1審の際に弁護人と打ち合わせは」
 被告 「なかった」
 弁護人 「父親は面会に来たか」
 被告 「2、3回来たが、『死ね』と言われた」
 弁護人 「罪状認否で『間違いない』と起訴事実を認めているが、そう答えることの意味は弁護人から聞いていたか」
 被告 「聞いていない」
 弁護人 「検察側の冒頭陳述を聞いていて、それが自分の記憶と違うとは思わなかったか」
 被告 「違和感はあったが、異議申し立てができる権利があることを知らなかったので、 していない」
 弁護人 「弁護方針について、弁護人から説明はあったか」
 被告 「無期懲役だろうから、変に争うよりも情状面で主張していくと言われた」
 弁護人 「調書の内容が違うと話したときの弁護人の反応は」
 被告 「頭を抱えていた。引っ繰り返すのは難しい、と」
 弁護人 「被告人質問についての打ち合わせは」
 被告 「なかった」
 弁護人 「弥生さんを死なせた経緯について、現在は『最初にスリーパーホールドをした後、 弥生さんから反撃されて2度目に押さえつけた』としているが、1審ではなぜそう供述して いないのか」
 被告 「弥生さんを死なせるまでに長い間かかっているのは残虐な感じがしたので、身勝手ながら途中の経緯をカットした」
 弁護人 「弥生さんを姦淫した理由を、生き返らせようとしたのではなく、性欲のためとしたのは」
 被告 「生き返らせようとしたと話せば、馬鹿にされると思ったから。人として扱われていなかったので、人として扱ってほしくて、人と共通する性欲だと説明した」
 弁護人 「人は生き返ると1審当時も信じていたのか」
 被告 「はい」
 弁護人 「遺体を押し入れに入れたことを『発覚を遅らせるため』としている。今は『ドラえもんが何とかしてくれると思った』と話しているが」
 被告 「ドラえもんの話は捜査段階でもしたのだが、馬鹿にされた。だから、裁判官の前では話をしかねた」
 弁護人 「求刑が死刑だったときはどう思った」
 被告 「『生きて償いなさい』と言ってくれた検事さんだったので、ショックだった」
 弁護人 「判決が無期懲役だったことは」
 被告 「人を死なせて無期でいいのかな、と思った」
 弁護人 「2審で問題になった不謹慎な手紙のことだが、相手は被告から受け取った手紙を捜査機関に提出しながら、9カ月も文通を続けていたことを知っていたか」
 被告 「知らなかった」 」( 9月18日22時19分配信 産経新聞


差戻し控訴審判決は、一・二審の裁判において新供述の内容とはまったく異なる事実認定がなされて進行していっているのに、元少年がそれを黙認・追認したことはあまりにも不合理・不自然だと繰り返し断じている。

もし自分が原因で2人の人物が死に至ったという事実がなかったならば、彼もいかに18歳とはいえ、目の前で進行している事態を黙って見ているというようなことはせず、必ず異議を述べただろう。彼は差戻し控訴審の被告人質問で「結果的に2人を殺めてしまっていることに変わりがないという認識を持っていたので,言い逃れのような気がして,弁護人に対し,殺すつもりがなかったという言葉を用いることができなかった」(第8回)、「罪状認否については,その意味合いを全く聞いていなかった」(同上)、「殺すつもりがあったかどうかが大切なことだということは全く分かっていなかった」(第9回)と述べている。この事件を起こすまでいわゆる非行少年ではなく警察沙汰を引き起こした経験もない彼にはそれまで取調べや裁判について知識を得る機会もなかっただろうし、彼のこの供述は事実をありのままに語っていると見て間違いはないように私には思われる。

差戻し控訴審判決は元少年の一・二審当時の態度について、「弁護人に対し,上記各判決で認定された事実が真実とは異なるなどとして,その心情を伝えたり,新供述で述べるような内容を話したりすることもなく,死刑を免れたとはいえ,無期懲役という極めて重い刑罰を甘受するということは到底考え難い。」とも断じているが、これは未成年であった元少年が当時置かれていた不穏な環境や不安な心理に対してあまりに理解と洞察を欠き、冷酷に過ぎる見方ではないだろうか。少年は当時から「死刑」という言葉が飛び交う環境のなかにいたのだ。弁護人は「無期懲役だろうから、変に争うよりも情状面で主張していく」と死刑判決回避を主眼とする方針を述べ、その上、父親からも「『死ね』と言われた」という元少年が孤立感のなかで、裁判の進行に不満と不信は持ちながらも、自分が2人の人物を死亡させたことが事実である以上、弁護人が暗に述べているごとくに彼自身も無期判決ならばよしとせねばならない、という心境になっていったとしても不思議ではないだろう。

著書に元少年の本名が明記されていることなどをめぐって被告・弁護側から提訴され、現在も裁判がつづいているという増田美智子氏のその著書には、差戻し控訴審で死刑判決を受けた後の元少年が面会に訪れた増田氏に対し一審当時を振り返って死刑を怖れる気持ちがあったと述べたことが記されている。また裁判が辛かった、傍聴人の視線が辛くて、一審でも二審でも弁護人に早く裁判を終わらせて欲しいと自分のほうから頼んだということも。彼は自分のほうからそのように頼んだのだから、裁判で事実関係を争わなかったのは必ずしも弁護人だけの責任ではないのだとも述べている。ーー当時の彼のうちにはあるいは法廷で記憶のとおりに話しても四方八方から直ぐに「嘘をついている」「反省がない」と決めつけられてその結果かえって重い判決が出たり、自分に対する世の中の指弾がさらにきびしくなる事態を予感し、それを恐れる気持ちがなかっただろうか。

何れにせよ、被害者遺族だけではなく傍聴人のきびしい視線を浴びつづけている法廷で、検察官が作成した調書には誤りがある、自分が行なったことは本当はそこに書かれていることとはちがう、と主張することは少年にとって容易いことではなかっただろう。私自身、18、19歳当時の自分をあえてこの少年の立場に置き換えて考えてみると、果たして記憶のとおりの事実をきちんと口にすることができたかどうか自信が持てない。まして当時の少年には頼りにできる肉親もいなかった。彼は上記のとおり面会に来た父親から死ねと言われたと述べているが、母親は彼が中学生のときに自殺してすでにいなかった。弁護人の考え・方針について触れると、一審の弁護人だけではなく、二審の弁護人も死刑判決回避が第一と考えていたようである。一・二審とも被告・弁護側は無期判決に対して控訴、上告をしていない。それをしたのは周知のように無期判決を不服とした検察だった。

一・二審の弁護人は少年からもっと具体的事実を引き出す姿勢を持つべきであった。これは明らかだと思うが、ただ当時の状況を思い起こすとそれはなかなか難しかっただろうとは思う。実際、一・二審で元少年に無期判決が言い渡されると、その都度世の中は被害者遺族にいたく同情的で、世論のごうごうたる非難は元少年と弁護人のみならず、無期 判決を言い渡した裁判官にまでおよんだ。このような事情・背景のすべてを差戻し控訴審の裁判官は黙殺し、元少年の供述の変化をただただ「不合理、不自然」として非難・一蹴しているが、裁判官のこの姿勢を見ると、未成年者を裁く裁判官としての見識・包容力の欠如を感じざるをえない。上記では「上告審の公判期日が指定されるまで維持してい た旧供述を翻したのは,まことに不自然である 」と述べ、別の箇所ではもっと直接に「元少年は (略) 死刑を免れたいと虚偽の弁解をろうしている 」と、元少年に対して「上告審の公判期日が指定される」ことがなければ、供述を翻すことはなかっただろう、上告審の公判期日を告げられたことで無期判決が覆る恐れを感じ、慌てて嘘の新供述を作り出 したのだろう、と言わんばかりの判示は、ここから死刑判決が導き出されたことを考えるとあまりに重大で見過ごせない。「上告審の公判期日が指定され」ることがなければ、 この時期に元少年が公に供述を一変させることがなかっただろうことは、確かに判示のとおりだ。それがなければ公の場で陳述する機会は元少年にはもうなかっただろうから。しかし「上告審の公判期日が指定され 」たことは、このために「虚偽の弁解をろう」することになったという裁判官の判断とまったく逆に、元少年のあらゆる迷いや気後れを吹っ切り、公然と真実を述べる契機になったということも当然考えられる。元少年が新供述を語り始めたのは二審の無期判決 (2002年3月14日 、広島高裁は検察の控訴を棄却) 後のようであるが、その辺りの経緯をはなはだ簡単ながら時系列で記しておきたい。

「 1. 2004年(平成16年) 元少年は広島拘置所で教戒師に出会う。元少年によると、この人物に彼は一・二審判決における事実認定の誤りと事件の真相を初めて打ち明ける。

2. 2006年(平成18年) 最高裁第三小法廷は検察の上告に対し、3月14日に口頭弁論を開くことを決定。2月27日、安田・安達両弁護士が元少年に初めて面会。元少年は事件に ついて教戒師に話した内容を両弁護士に告げる。両弁護士、弁護人に就任。 最高裁に口頭弁論の準備が整っていないことを理由に口頭弁論の期日延期を申し出たが、最高裁はこ れを一蹴。弁護人は3月14日の弁論を欠席。巷でははげしい弁護人非難が沸き起こるが、口頭弁論は日を改めて4月18日に開かれた。この弁論で最も重要だったことは、弁護人が 裁判記録を読み、専門家(上野正彦氏)にも意見を聞き、教えを受けながら事件を検証していった結果、これはまだ端緒についたばかりの検証だと断りながらも、2月27日に元 少年が語った新供述は裁きり判記録のなかの死体の傷と一致していることを確認したと述べたことだろう。上野正彦氏も元少年の新供述を真実と認めたことは差戻し審での上野 氏の証言を見れば分かる。6月、最高裁は広島高裁の判決を破棄し、同高裁に審理を差し戻す。

3. 2007年(平成19年) 5月、広島高裁で差戻し控訴審開始。被告人と20数名に膨らんだ弁護人は、これまで裁判所に事実として認められてきた排水検査員を装っての強姦計画 を否定。被害者母子に対する殺害の意思を否定。両手で力いっぱい被害者の頸を絞めたことや、赤ちゃんの身体を床に叩き付けたことなどの殺害態様を否定した。「 7月25日、 法医鑑定をした二人の専門家が法廷に立ち、一人目の大野曜吉教授(日本医科大大学院)によると、「捜査段階で男性被告が自白した殺害方法は遺体に残された損傷と整合しな い」などと証言、差戻し審での被告の証言と一致するとの判断を示した。 上野正彦元東京都監察医務院長は、右手を逆手にして弥生さんの首を押さえたなどとする差戻し審での 被告の供述は「(遺体の状況と)一致する」」(中国新聞)と指摘した。「7月26日、 元少年の精神鑑定を行なった精神科医の野田正彰関西学院大教授が法廷に立ち、「元少年の人格発達は極めて遅れており、他の18歳の少年と同じ責任を問うのは難しい。」「元少年の父親が妻と元少年に繰り返し暴力を振るっていたことが、元少年の内面に大きな影響を与えた」と指摘。その上で「事件当時までの人格発達は極めて遅れており、 更に母親の自殺で停滞した」と述べた。 」(毎日新聞7月26日)。

4. 2008年(平成20年) 4月22日、差戻し控訴審死刑判決

5. 2012年(平成24年) 3月22日、上告棄却。死刑確定 」

事件を正確に見る上では、上記 1. から 3.に至る出来事の順序を時間に沿ってきちんと把握することはきわめて重要だ。元少年の供述の変遷を見ると、ここには成人に較べて知恵や 分別に欠ける未熟な少年を密室でたった一人捜査陣が相対して取り調べることや、公開の場で少年を裁くことの危険と弊害が明瞭に顕れているように思われる。このことの問題 性は、元少年の新供述をどのように受け止めるかは別において、誰の目にも明らかではないだろうか。強姦の計画、被害者に対する殺意、残忍な殺害態様などの現在事実と認定 されているものの証拠はほぼすべて少年の捜査段階の供述調書であり、法廷では少年がまともに口を開いて事件について具体的に発言した場面はほとんどなかったのだ。こうし て元少年が新供述を話し始めた事実経過およびその供述内容を見ると、繰り返しになるが、先に引用した差戻し審の判決はまったく不合理であり、改めて首を傾げざるをえな い。初対面の元少年が事件の真実として話した内容を聞いて帰った弁護人が記録と照合してみると、被害者の死体所見は取調べ段階での元少年の自白調書、すなわち裁判所もこ れまでずっと疑いのない事実として認めてきた内容と整合しているのではなく、元少年が初面会で真実として話した内容と整合しているように見えたこと、この見解は専門家か らの賛同も得たこと、そして法廷ではこの専門家もふくめた2人の法医学者が揃って死体所見は元少年の自白調書と整合しているのではなく、差戻し審における新供述と整合し ていると傍目にも確信的な言葉遣いで証言したこと。これらの事実はたとえようもなく重要だろう。刑事裁判ではしばしばある事実が秘密の暴露であるかどうか、つまりその 「ある事実」は本当に「犯人でしか知りえない事実」であるかどうかが問題になるが、この事件における元少年の場合、新旧の供述内容、旧供述から新供述への転換の経緯、転 換に際しての説明内容などを見ると、彼の新供述は一種の秘密の暴露たりえているように思う。元少年が話した新供述は、弁護人だけでなく(20数人の弁護人が結集したのも元少年の新供述に真実性を感じた、見いだしたという点を抜きには語れないだろう。)、2人の法医学者からも死体の所見と整合していると太鼓判を押されたのである。

「  認定事実への疑問証言=弁護側の法医学者、光市母子殺害-広島高裁
 山口県光市の母子殺害事件で、殺人などの罪に問われ、最高裁が一、二審の無期懲役判決を破棄した当時18歳少年で元会社員の被告(26)の差し戻し控訴審第6回公判が2 5日、広島高裁(楢崎康英裁判長)で開かれた。弁護側証人の法医学者2人が、被告の捜査段階の自白は遺体の鑑定結果と整合しないとして、最高裁が認定した犯罪事実を否定 する証言をした。 大野曜吉日本医科大教授(法医学)は、殺害されたYさんについて「首に両手で絞められた形跡は見られない」と説明。あごに残る円形の傷は、 被告が背後か ら腕で首を絞めた際、作業着袖の金属製ボタンが当たったと考えられるとした。 長女(11カ月)=を床にたたき付けたとする点には「(事実なら)脳に損傷があるはずだ」と 否定。「首の後部でひもを強く絞めた跡はない」とも述べた。 上野正彦元東京都監察医務院長(同)は、右手を逆手にしてYさんの首を押さえたなどとする差し戻し審での被告の供述は「(遺体の状況と)一致する」と証言した。(時事通信社 2007/07/25/21:08 )

 「首の傷自白と合わず」 光母子殺害事件で法医学者証言
 光市母子殺害事件で殺人などの罪に問われ、最高裁で無期懲役の判決を破棄、審理を広島高裁に差し戻された犯行時18歳の男性被告(26)の差し戻し審の公判が25日、広島高 裁であった。弁護側が法医鑑定を依頼した専門家二人が証人として「(被告が捜査段階で自白した) 殺害方法は遺体の状況とは合致しない」との見方を示し、いずれも差戻し審 での弁護側の主張に沿う証言をした。 日本医科大大学院の大野曜吉教授(法医学)と法医学者で東京都監察医務院の上野正彦元院長。 弁護側の尋問で、二人は遺体の状況や司法 解剖の鑑定資料に基づく自身の鑑定結果を踏まえ、Yさんの首に残された傷に「不自然な点がある」などと説明。傷の位置や形状が「馬乗りになり、全体重をかけ両手で首を絞 め続けた」とする捜査段階の被告の自白と合わないと述べた。 上野元院長は「右の逆手で押さえたと推測できる」などと主張。大野教授も、押さえたのは片手だったとの見方を 示し、「大声を出されて右の逆手で口をふさごうとした際、首にずれて誤って死なせた」とする弁護側の主張に沿う発言をした。 二人は長女=当時11カ月=殺害に関する被告 の捜査段階の自白にも矛盾点があると説明。「頭上から床にたたき落とした」との自白は「脳に重い症状が出ていない」 などとして疑念を呈した。 大野教授は「Yちゃんの首に 巻いたひもを力いっぱい引っぱって絞めた」との自白も「強く引っ張ったような所見はない」などと説明した。 公判は26日も続き、弁護側が申請した精神鑑定の証人尋問などが あった。 (中国新聞 2007/07/26) 」

上野氏は差戻し審で証言台に立たれた数日後、テレビのインタビューを受けておられたが、そのとき「死体検案書と供述調書とは、本来、印鑑と押印した刻印の関係のように両 者はピッタリ一致していなければならない。しかしあの事件の場合、被告人の自白調書は遺体の傷と一致していないんです。差戻し審での供述は一致しています。」と、遺体に 残された傷を指し示しながら説明されていた。素人の私などには正確に理解するのが難しい内容には違いなかったが、しかし、指先が白くなるまで両手で被害者女性の頸を絞め つづけた痕跡、頭上から被害児の頭部を下にして思い切り床に叩き付けた痕跡は死体検案書にないことを具体的に指摘されると、全然理解できないということではなかったよう に思う。これは経験豊かな法医学者にとっては特に難しい事案でもない、専門家なら基礎的な能力で判断が可能な範疇のことではなかったのだろうか。その後、私たちは元少年 の供述の変化・新供述の内容について不合理・不自然・虚偽の供述と断定した差戻し控訴審の死刑判決を見たわけだが、私には今になっても依然として、いや今になるとなおさ ら、この経過自体が改めて摩訶不思議なことに思えてくる。「元少年の旧供述は遺体の傷に一致せず、新供述は一致している」と断言する上野氏も、また大野教授も、そして弁護人も、元少年が供述を一変させ、これが真実だと一つ一つについて述べるところの話を聞いた後に、初めて元少年のその供述が果たして事実であるかどうかを検証する目的で死体検案書を見たのだ。その結果、元少年が現在真実として語っているその新供述が死体検案書とピッタリ一致していること、逆に捜査段階に録取された自白調書は一致していないことを確認した、あるいはそのような判断を持った。

これが実際に起きた出来事の事実経過である。差戻し控訴審判決が述べているとおりにもし元少年が死刑逃れのために虚偽の供述を始めたのだとしたら、初対面の弁護士から「事件についてもう一度自分の口で一から話して欲しい」と言われた元少年がその場で語った具体的・詳細な供述がなぜその弁護士のみならず、実績と定評のある法医学者2人もの人物から「遺体の傷は自白調書とではなく、新供述と一致している」という確言を得ることができたのだろう。何もかも偶然の一致? 付け加えておくと、元少年のこの供述の変化は誰にとってもまったく思いがけなく起きたものだったはずだ。経緯を見れば、このことに疑いの余地はないだろう。

ところがこれに関連して差戻し控訴審判決は何やら新弁護人が元少年を唆してストーリーを捏造したかのような仄めかしをしている。裁判官はいったいどのような根拠を持ってそのような不合理きわまりない奇説を述べているのだろう。これまでこの裁判と無縁であった弁護人がなぜ就任するかしないかのうちに重大事件のストーリーを捏造するなどという世にも愚かかつ危険な行為を行なう必要があるのかという基礎的疑問もさることながら、法医学者から「遺体の傷と元少年の新供述は印鑑と印形のように一致している」と太鼓判をおされるほどの架空のストーリーを、事件を体験していない弁護人がなぜ創れるのだろう。これも偶然の一致なのだろうか? だとしたら元少年の新供述をめぐる一連の経緯は万に一つの偶然の一致どころの話ではない。億に一つ、京に一つの偶然が一斉に10も20もずらずらと生じ積み重なった末の偶然の一致ということになりそうだ。そのことを承知している裁判官は、判決を書く上で、「死刑廃止のために弁護団が事件を利用している」という一部世論の無根拠・無責任な声を素知らぬ風で利用したように思える。
関連記事
スポンサーサイト
2012.04.10 Tue l 裁判 l コメント (0) トラックバック (1) l top

コメント

コメントの投稿












トラックバック

トラックバック URL
http://yokoita.blog58.fc2.com/tb.php/198-8d9478a2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
元少年は差戻し控訴審において、これまでのすべての裁判所ーー一審の山口地裁、第一次控訴審の広島高裁で事実として認定されてきた「背後から被害者に抱き付き、仰向けに引き倒し、馬乗りになった上、殺意をもって、被親指で思い切り押さえつけるようにして首を絞めたとこ...
2012.04.10 Tue l まとめwoネタ速suru
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。