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書くのが遅くなってしまったが、ようやくにして確定した足利事件の菅家利和さんの再審無罪判決について感じたことを述べておきたい。3月26日、宇都宮地裁において菅家さんの無罪は確定したが、判決の後、佐藤正信裁判長は、菅谷さんにむかって次のように謝罪したという。読売新聞に全文が載っていたので引用する。

「 通常ですと、判決宣告後に適当な訓戒ができることになっていますが、本件では、自戒の意味を込めて謝罪をさせていただきます。
 菅家さんの真実の声に、十分に耳を傾けられず、17年半もの長きにわたり、自由を奪う結果となりましたことを、この事件の公判審理を担当した裁判官として誠に申し訳なく思います。
 このような取り返しのつかない事態を思うにつけ、二度とこのような事を起こしてはならないという思いを強くしています。
 菅家さんの今後の人生に幸多きことを心よりお祈りし、この裁判に込められた菅家さんの思いを深く胸に刻んで、本件再審公判を終えることといたします。」

足利事件において裁判所は一審・二審・最高裁と都合3度も誤判を繰り返し、菅家さんを取り返しのつかない苦しみのなかに閉じ込めてきたのだから、謝罪は当然のことだが、その内容にはいささか疑問を感じる。「菅家さんの真実の声に、十分に耳を傾けられず」という発言に対してである。

菅谷さんが無実を訴えだしたのは、2001年に草思社から出版された小林篤氏の労作「幼稚園バス運転手は幼女を殺したか」(2009年に標題を「足利事件」と変更して再刊行。講談社文庫)によると、一審の最終段階に入ってからだったようである。そのときから菅谷さんは自白とともに有力な証拠とされていたDNA鑑定について、もう一度DNA鑑定をやってもらいたい、自分はあの犯行をやっていないのだから、鑑定をやり直してもらえば自分の無実は明らかになるはずだと一貫して述べていた。これは控訴審以来の弁護人の主張でもあった。そもそもこの鑑定結果が厳密な証拠能力をもっているかどうかについては、「幼稚園バス運転手は……」によると、当時裁判を傍聴し、事件を伝える報道記者たちにさえつよく疑われていたようである。それなのに裁判所は被告人の訴えに頑として耳を貸さなかった。再審の佐藤裁判長が「十分に耳を傾けられ」なかったという「菅谷さんの真実の声」とは再度の鑑定を求める菅谷さんのこの訴えを指しているのかとも思う。それならば、逆転無罪判決という絶好の機会にこそそのことを率直に述べるべきだったのではないだろうか。なぜかといえば、そのようにして具体的に誤りを俎上に乗せて語らないかぎり、この過ちが今後に生かされることにはならないのではないかという危惧や不信を拭えないからである。

上記で書いたように、佐藤裁判長の言う「真実の声」がもしDNA鑑定を求める菅谷さんの声を指していたのだとしても、「真実の声」という言い方にはなお疑問が残る。裁判所の誤りは、無実の人の「真実の声」に十分に耳を傾けなかった、というのではなく、事件の真相解明に十分な誠実さ、熱意、真摯さをもって取り組まなかったことではないかと思うのである。裁判長の「真実の声」という言葉に即していえば、真実の声が何であるかを見極める姿勢において裁判所は欠けていたのではないかということである。

裁判の目的は一にも二にも真相解明にあるはずである。真相が解明されなければ被告人に対して有罪も無罪も判決の宣告はできないわけである。無実を訴える菅家さんの声が真実だったことは今になると明らかだが、被告人と検察の主張が相反した場合、どちらの言い分が真実かは、特に裁判の開始当初は誰にも分からない。場合によっては双方とも真実とかけ離れた偽りの主張をしていることだってありえる。裁判所に常に求められるのは、客観的な証拠を基にした徹底的な真相解明の遂行のはずである。それが誠実になされていなかったことは、控訴審以後の主任弁護人である佐藤弁護士の話を聞き、小林篤氏の事件について伝える文章を読み、またマスコミ報道などで裁判の推移を振り返ってみるかぎり、あまりにも明らかだと思われる。だからこそ、裁判長には、ありきたりの一般論で謝罪するのではなく、具体的な審理上の誤りの指摘やそれに対する自己批判の言葉を述べてほしかったと思う。具体的な論点が裁判官の口から語られてはじめて、取り返しのつかないこの誤判を今後の司法の改善と健全化に教訓として生かすことができるはずである。第一、菅谷さんの取り返しのつかない被害、人権侵害に対して、せめてそのくらいの実のあることをしないと、なんらの謝罪にもならないだろうと思う。

小林篤氏の「幼稚園バス運転手は幼女を殺したか」は、二審が始まった直後から取材がはじめられ、最高裁で無期懲役が確定するまでの経過を追ったもので、菅谷さんの有罪判決につよい疑問を投げかけるものであった。私がこの事件について多少の知識をもったのは、この本によってであった。パチンコ店前からの幼女失踪の経過、翌日河川敷で遺体が発見された際の現場の状況、警察および検察によるしらみ潰しの捜査、後に容疑者として逮捕されることになる菅谷さんの当日の行動、菅谷さん逮捕に至るまでの捜査の動きと流れ、菅谷さんの自白、その後の裁判の推移。この本は事件に関わるそれらすべてを詳細に、また丁寧に追ったもので、些細な点まで実にかゆい所に手が届くというような細やかさで事件のいろいろな側面が描かれていたと思う。小林氏は菅谷さんの有実に疑問を感じながらもその直観に引きずられないように、思い込みによって見方が偏ることのないようにと、抑制的な神経の働かせ方をし、さまざまな角度から精緻な検証をなしていたと思う。だからこそ、なのだろう、読んでいて、菅谷さんを有罪とするための根拠がことごとく崩れ、消えていき、その結果、この有罪判決の納得のゆかなさに焦燥感をおぼえさせられた。

菅谷さんの自白内容は、一つ一つ吟味していくと遺体や死体発見現場やその付近の状況とまったく一致しないのである。「幼稚園バス運転手は幼女を殺したか」によると、控訴審の弁護人は「控訴趣意書」で、次のように自白内容の不合理・不自然な点を挙げ、菅谷さんの無実を確言している。

① 被害者を見つけられたか。パチンコ店の駐車場付近でこのようにして被害者幼女を見つけたという菅谷さんの事情説明が不合理である。同時間帯には、駐車場に車が多数駐車していると推測されるが、もしそうであったならば、菅谷さんの位置からしゃがんでいた幼女を見ることは不可能だったはずである。

② 見知らぬ男の誘いに応じるか。4歳8ケ月の、しかも非常にハキハキと話す、しっかりした性格の女の子が、目の前のパチンコ店内に父親がいるというのに、見知らぬ男に「自転車に乗るかい」とひと声かけられただけで、その誘いに応じるか。

③ なぜ目撃者が現れないのか。菅谷さんは、パチンコ店から渡良瀬公園までの600m程の距離を幼女と二人乗りの自転車で行き、葦の茂みに入ったと供述している。1990年5月12日。時刻は午後7時前頃であり、公園付近には100人くらいの人がいて、そのうち80人が捜査当局に判明しているとの新聞報道がある。しかし、被告人らを見たという目撃者は一人も現れない。犯行の際に公園入口付近に30分程自転車を放置していたのに、これを見たという者もいない。また、菅谷さんが幼女を誘ったとされるパチンコ店から菅谷さんの実家までは1kmの距離であり、菅谷さんもこのパチンコ店に週に二、三回は通っていてよく顔を知られていた。このあたりは菅谷さんの生活圏内なのだ。したがって、当日も同パチンコ店には菅谷さんの知人が何人もいた。しかしこの日に菅谷さんを見たという人間は一人も現れない(自白をひるがえした後、菅谷さんはこの日借りているアパートの部屋からまったく出なかったと述べている)。

④ まもなく5歳になるという女の子が、日没後の暗がりをついていくか。当日の日没時間は午後6時40分。薄暗くなった午後7時前後に、女の子が駐車場から公園までの600メートルもの距離を嫌がることなく荷台に乗り、さらに、自転車を降りた後、被告人に手を引かれるまま、黙って葦の茂みの中に入って行くということがありえるだろうか。

上記の他に、○遺体の傷が自白と合致しない、○自白による殺害行為の不自然さ ○わいせつ行為のおよそ考えられない不自然さ、○「犯行場所」の自白が転々と変遷している、○犯行の核心部分の自白が変遷を重ねている、○被害者の衣服についての被告人の自白の矛盾-客観的状況とかけ離れている、○犯行後の行動として自白した内容が客観的状況と矛盾している、等々が述べられている。

詳しくは、本を読んでいただきたいが、一つ一つの状況を確かめながら文章を追っていって、判決に対する疑問や苛立ちを感じずにいることは難しいことだった。控訴審の裁判所は菅谷さんが被害者幼女に声をかけて公園に連れ込み、犯罪をおかしてその場を立ち去るまでの事実経過に的を絞ってその真偽を検証していくのではなく、DNA鑑定の高い信用性のみを集中的に語っているように思えた。これはあるいは、事実を吟味し検証していけば、その内容があまりにも矛盾にみち、不自然・不合理であり、有罪判決をくだし得ない結果になることを恐れたからではないかという疑いさえおぼえさせられた。DNA型の再鑑定をかたくなに拒否する裁判所の姿勢と合わせて、そのように感じられたのである。それから判決に対してこのように焦燥を感じずにいられない疑念をおぼえさせられるのは、昨年死刑が確定した「埼玉愛犬家殺人事件」の風間博子さんに対する判決文も同様だということを述べておきたい。
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2010.04.02 Fri l 裁判 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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